危険な彼女

そっと背中を押され、奈津はふらつくように足が二、三歩動いた。



だが、それから先は…




「なっちゃん…早く行かないと………」




急かすような亜紀の声。



グッと拳を握り、なんとか足を動かそうとした。




「………く」




………けれど、動かない。




こんな、こんないい子を悲しませてまで、俺は何をしているのだろう。



今、振り返って優しく抱きしめてやれたら…




…でも、わかっている。



それは偽善だ。



一時限りのもので、亜紀をさらに傷つけることにしかならない。




「なっちゃん…お願いだから………」




「……………」




「………行って。

…お願いだから行って!!!」




――!




初めて聞いた、亜紀の大声。



その声に、奈津の体はビクッと震えた。



そして………




「亜紀………


ごめん………!!」




奈津はそう言うと、走り出した。