かつて、発信時の待ち時間がこれほど酷に思ったときがあっただろうか。



ゴクリと唾を飲み、桜が出たときのことをシュミレートする。



しかし、どんなイメージも、まず怒声から始まるのだった。




ガチャ…




「もしも『あんた私の電話に出ないって何様よっ!!!』」




予想通りの怒声。



これを落ち着かせるのが今回課せられた自分の任務である。




「わ、悪い…
携帯忘れて買い物行ってたから…」



『忘れていったぁ?
あんた、どこまで馬鹿なわけ?』



「すみません、俺は馬鹿です。

馬鹿だから許してください」




もはやプライドなんてほこり程度も残っちゃいなかった。



優先事項は怒れる主人の鎮静。



これ以上に優先する事項が全く見当たらない。



奈津は見えない桜に頭を下げた。