固まった奈津を見て、呆れたように美冬は作業に戻った。



再び手慣れた手つきで電卓を打ち始める。




「いや、でもさあ………

桜が俺を………いやいや、ない………だろ?
なあ?
それはないよなぁ?」



「うるさい、いい加減黙りなさいよ単細胞生物」


「たんさっ………!」




いくら何でも言い過ぎだろう。



自分にだって複数の細胞は存在しているはずなのに。



奈津は少し傷ついたのか、がくりと肩を落とした。




「………ちゃんと決めなさいよ?」



「………え?」




唐突に、背を向けたまま、美冬は奈津に話しかけてきた。




「私は亜紀の親友だから………、正直、亜紀を応援したいけど………


こういうことは簡単に口出ししちゃいけないって分かってるから、私は観客にまわる」



「……………」



「でも、これだけは言いたいの。

選ばないまま、決断を先延ばしにしてたら…誰も幸せになんてなれない。


…もちろん、あんた自身もね。

だから選びなさい、ちゃんと、自分の意志で」




その言葉に、奈津は答えることはできなかった。



ただ、やり場のない感情が自分の中を暴れまわり………



妙に、美冬の言葉が頭に残った、そんな気がした。