危険な彼女

亜紀の言葉がやけに頭に残った。



まるで、心の中の敏感な部分をそっと触れられたような感覚だった。




「優しいか、俺?」




自分では一度もそう思ったことはないし、人に言われたこともない。



面と向かって、そう言われたのは初めてかもしれない。




「気づいていないから優しいんだよ。

無自覚…って言うのかな?


なっちゃんの優しさはね、さりげなくて、でも、しっかり伝わってきて………」



「……………」




何だか照れくさくなってきた。



亜紀が珍しくはきはきとしゃべったと思えば、急に自分をべた褒めだ。



奈津は、恥ずかしさからか亜紀に背を向け、その状態のまま口を開いた。




「………でも、俺はそんなにたいそうなやつじゃないぞ?


優しさ、なんてものは俺の中じゃ定義されてないし、どうゆうものが優しさなのかなんて分からない。

下手したら、いらないお節介なんじゃないか、とさえ思う」




昔から母に言われたことだった。




『他人には優しくしなさい、そうすれば、いつだって誰かがそばにいてくれるから』




思えば、これが自分の行動理念になっているのかもしれない。



一人にはなりたくない。


孤独にはなりたくない。



そう思ったから、できるだけ人には優しくしようと思った。






………ならば自分は偽善者ではないのか?



優しく、優しくって………


結局は自分のためじゃないのか?





奈津はそんなことを考えながら、少しうつむいた。