その子の名前は「池端早苗」。

その子の家から毎夜聞こえる怒鳴り声や叫び声は、どんどん大きくなった。
近所の人たちは知らない振りを決め込んでいた。

池端は不幸を自分の中に閉じこめたまま、難関の私立中学に進んだ。
私と会えば、以前と同じようにまっすぐ挨拶した。
私もずっと同じように、一言だけ返した。


私が東京へ逃げていた間も、池端は逃げずに自分の家にいて、高校へ進んだ。

私が再びこの街に戻ったとき、池端の家には、白装束の風変わりな人たちが出入りするようになっていた。
池端の家からは、夜の怒鳴り声に加えて、朝夕はお祈りだかまじないのような変な声が聞こえてきた。


池端自身は変わっていなかった。

私と会うと池端は、何事もなかったように挨拶をしてきた。



 すっげえ……


 
池端早苗は、私が最も尊敬する人物になった。





        そして……