男はいない…
私は、安心してドアを開けた。

途端に、むわっとなま暖かいよどんだ空気と、生ゴミ入れのような匂いが、襲いかかってきた。

部屋いっぱいにゴミがあふれている。

その真ん中に、髪の乱れた、ブヨブヨした女が座っていた。
透明の液体を、こぼしながらコップに注ぎ、口に運んでいる。

開いたドアに気づいて、こちらを向いたその顔は、紛れもなく母だ。

まだ40歳そこそこなのに、老婆のように見えた。



私が2年も家を出ていたことなど、母は全然気にならないようだった。

「お帰り。
母さん、また捨てられちゃったよ。

みんな行っちゃった、あの人も、アンタのお父さんも…。

アンタ、お金ある? 
お酒、買ってきてちょうだい」

呂律が回らない舌でこれだけ言うと、母はコップに口をつけた。