ことばにできない

窓の外の景色が、夕方の日差しをうけて、紅色に染まっていた。


「私、行くね。

 お姉さん、ずっと付き合って座ってくれて、ありがとう。
 私のくだらない話、ずっと聞いてくれて、ありがとう」


少女は指で涙を拭うと、立ち上がった。
そして、大事に持っていた封筒の、表の文字を撫でた。
ボールペンでクシャッと殴り書きされているその文字は、

「実香へ」

少女は、それをじっと見つめてから、封筒をカバンのポケットに入れた。

少女が私に背を向けた。


「どうするの、これから?」

私が問いかけると、彼女はゆっくりと振り向いた。
髪の毛がふわりと揺れ、窓の外の光を受けて、毛先がキラリと輝いた。

「どこかのホテルに泊まる。
 お金はたくさんあるから、大丈夫。
 それからのことは、また後で考える」

それだけ言うと、彼女はまた、私に背を向けた。

彼女の背が、少しずつ私から遠ざかる。

足音と共に、髪の毛がゆっくり揺れる。


 コトリ、

   コトリ…


     フワリ、

       フワリ…