夢をあきらめきれないユリちゃんのお父さんは、教養学科が無理でも、ユリちゃんにはどうしても、その学校の短大を出て欲しかった。

二人は何度も大げんかをした挙げ句、その学校の〝幼児教育科〟で妥協した。

学内進学で、短大入学までは許されたものの、入ってからの勉強が思いのほか大変で、ユリちゃんは「生まれて初めて猛勉強した」そうだ。

「でも、短大には他の学校から入ってくる子が多いから、新しい友だちがいっぱい出来て、スッゴイ刺激的だった。

お菓子作りが好きな子がいてね、しょっちゅう自作のケーキ持ってくるの。
それが、半端じゃなくおいしいのよ。
作り方教わってるウチに、私もはまっちゃった。
今は相当な腕前よ、自分で言うのもナンだけど。

本当は、パティシエの道も考えたんだけど、幼稚園の先生の資格とれたし、この仕事だって嫌いじゃないから、今は満足してる。
仕事がハードだから、ちょっとスリムになれたし。

でも、ケーキが好きだから、これ以上は痩せられないわ」

そう言うユリちゃんが週末ごとに差し入れてくれるケーキの味は、確かにプロ並みだった。