――――
――――――
「ねえ、摩耶(マヤ)さん、聞いてよ」
まだ梅雨に入る前の6月初旬。
夜10時。
私は行きつけのダイニングバー「マーヤ」のカウンター席に着くなり、向かいに立つ彼女に愚痴った。
「いらっしゃい、香菜ちゃん。
今日はどうしたの?
また、あのやる気のない上司さん?」
毎度のことなので、摩耶さんは微笑みながら話を聞いてくれる。
「違うの。
今日は新人君」
「ああ、覚えが悪いって言ってた?」
「覚えだけじゃないわ、何もかもがとろいのよ。
今日ね、午後一で会議の予定だったのよ。
で、その資料をほとんど昨夜のうちに仕上げておいたの、私。
あとは、印刷してグラフ資料と一緒にまとめて、人数分コピーするだけってとこまでやっておいたのよ。
印刷とコピーなんて誰でもできる簡単な仕事でしょ?
だから朝一で、午前中にやっておいてねって頼んだのに、あいつ、どうしたと思う?」
摩耶さんは美しい顔を少し斜めに傾げ、顎に指を当てた。
「うーん、1部しか印刷しなかったとか?」
私は大げさに首を振った。
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「ねえ、摩耶(マヤ)さん、聞いてよ」
まだ梅雨に入る前の6月初旬。
夜10時。
私は行きつけのダイニングバー「マーヤ」のカウンター席に着くなり、向かいに立つ彼女に愚痴った。
「いらっしゃい、香菜ちゃん。
今日はどうしたの?
また、あのやる気のない上司さん?」
毎度のことなので、摩耶さんは微笑みながら話を聞いてくれる。
「違うの。
今日は新人君」
「ああ、覚えが悪いって言ってた?」
「覚えだけじゃないわ、何もかもがとろいのよ。
今日ね、午後一で会議の予定だったのよ。
で、その資料をほとんど昨夜のうちに仕上げておいたの、私。
あとは、印刷してグラフ資料と一緒にまとめて、人数分コピーするだけってとこまでやっておいたのよ。
印刷とコピーなんて誰でもできる簡単な仕事でしょ?
だから朝一で、午前中にやっておいてねって頼んだのに、あいつ、どうしたと思う?」
摩耶さんは美しい顔を少し斜めに傾げ、顎に指を当てた。
「うーん、1部しか印刷しなかったとか?」
私は大げさに首を振った。


