フフフ、やっぱり欲しくなったか。


人が食べてるのを見ると、食べたくなるのが人情よね。


私はそう思い、さっきくれると言ったケーキを成哉の前に戻して言った。


「どうぞ」


しかし、成哉はそれをちらっと見やると、また私の顔を見つめてきた。


「遠慮しないで食べて。
もともと成哉の分なんだから」


そう言うと、成哉は差し向かいの位置からテーブルの角を挟んだ隣に移動してきた。


ん?


隣に来た成哉を斜めに見上げると、右手の中指で私の唇の端に触れた。


ビクッと驚いて身をのけぞらすと、成哉は指についたクリームを私に見せた。


あ、取ってくれたのか。


びっくりした。


「ありがと」とお礼を言おうとすると、成哉はクリームのついた中指を自分の口に入れた。


チュパッと音を立ててその指を口から引き出す。


そしてまた私をじっと見つめた。


私は金縛りにあったように動けなくなった。