「香菜さん、さっきはホントありがとうございました」


昼休みに会社を出たところで千佳ちゃんが頭を下げてきた。


いつもの元気がない。


「気にしないで、いつものことなんだから。
でもこの埋め合わせは田倉君にしてもらうつもりだけど」


私がいたずらっぽく笑うと、千佳ちゃんもかろうじて微笑んだ。


「あの社長さん、すぐ怒鳴るでしょ？
私、怒鳴られるとそれだけで怖くなっちゃって、どうしてもだめなんですよ」


千佳ちゃんの気持ちもわかる。


こういうのは場数なのだ。


「私も千佳ちゃんくらいの頃はお客さんに叱られて泣いたこともあるのよ。
でも、そんなことを何年も続けてると、慣れてくるもんなの。
経験が余裕を生むんでしょうね。
千佳ちゃんもあと３年もすれば、片手で課長の似顔絵描きながらクレーム対応できるようになるわよ」


そう言うと、千佳ちゃんはやっといつも笑顔になって頷いた。


そのとき、私のケータイが鳴った。