「早川、教科書62ページを読んでくれ。」

「はい。」



眠気が教室中に充満するなか、一人、大きな瞳をこじ開け、教科書を手に持つ。




夢へと旅立つヤツらが増える5時間目。


しかも、国語。



いつもより静かな教室に、柔らかで心地いい声が響く。






俺はそっと耳を澄ました。


彼女の柔らかくて心地よい声がスッと耳に入り、染み込んだ。


あの廊下ですれ違う時の感覚が俺の体中を走り抜ける。




高校一年の秋から抱く、この得体の知れない感情は二年生になり、ますます分からないものへとなった。







「よし、そこまででいいぞ。 早川」


そう先生に言われ、教科書を読むのをやめた。




 早川 咲(はやかわ さき)


廊下ですれ違った時から、ずっと気になっているあの子だ。