「30も上なのよ?
あなたが先生について行く事
それが どんなに大変な事か
わかっているの?」



私は うなずいて



「わかってる
子供のことだって考えてるよ
先生が定年退職したら
教育費とか大変になるだろうし

何より先生は私よりずっと早く死んじゃうことも

その前の介護のことだって…」



「ちょ、ちょっと絆
現実的なビジョンもそうだけど
あなたが若いってことが
私は一番心配なのよ」



お母さんは
私の手をギュッと握った


「結婚ってただでさえ大変
1割の幸せで
9割の苦労を耐える
と言っても過言じゃない」



お母さん………



「育ちも考え方も違う二人が
同じ人生歩くって大変なの
あなたと先生はプラス年の差

娘には苦労させたくないわ」



お母さんの手を
ギュッと握り返し



「私は先生となら
10割、100%の苦労だって
乗り越えてみせる」


先生が 先生といる苦労なら
私は喜んで耐えてみせる



しばらく
じっと見つめ合っていたけど


「ふっ…」とお母さんが
表情を緩めた



「お母さん?」


「若いのよ、そういう所が
だけど一度言い出したら
聞かないってことも知ってる」



お母さんは私の髪を撫で



「あなたが生まれた時から
何となくだけど
早く巣立って行くような
気がしてたのよね」


「お母さん……」


「ま、どっちにしろ
絆が先生に振られたら
おしまいな話だけど」


そ、そんな お母さんっ!


「もしも先生が絆のこと欲しいって言ったら

お父さんのことは
私に任せなさい」



…………お母さん



「お母さんっ!大好きー」


バッと抱きつくと
シャンプーのいい香りと
柔らかい背中の感触に涙が出た