抱きしめてほしいと思うのは
どうしてだろう?



声を聴いただけで

顔を見れただけで

胸はつまって苦しいのに



もっと近づきたいと願うのは
どうしてなのかな?




先生は最後にポンポンと撫でて
私から離れ、
キッチンへ歩きながら訊いた



「温かいお茶がいいかな?
それとも冷たい物が飲みたい?」



私はリビングのソファーに座り


「温かいお茶ください」



カチャンとやかんを出し
ジャ――――って水を入れる音を背中に聞き



テーブルの上には数学の問題集が開いたままになってる



壁の時計を見上げると6時を少し過ぎたところだった



やかんのお湯が沸くのを
先生はキッチンに立ち待ってる



「先生」


私はソファーの背もたれに手をかけ、上半身をひねり キッチンを振り返る



「先生、お仕事終わった?」



「ん~。だいたいね」



「……夕食、一緒しちゃダメ?」


おずおずと聞くと
先生は私から スッと目を逸らす


それで もう わかってしまう



「……」先生が口を開いたから


「あ、ごめんなさい。
あまり長居しちゃ迷惑だもんね」



先回りして、諦める


先生は必ずNOの時は
私から目を逸らす