男は今、いつものように食料の買い出しに行っている。

私一人を残して。

…逃げるには絶好のチャンス。

それでも私は逃げない。

目隠しされているから。

拘束されているから。

でも、ふと考える。

―――私は本当に逃げる気があるのかしら。

―――本気で逃げる気なら、目隠しされていても拘束されていても、這い蹲ってでも逃げようと考えるのではないの?

違う、そうじゃない、どうせ逃げるのなら確実を期しておきたいだけ。

男からもっと信頼を勝ち取り、拘束や目隠しを外させ、万全の状態で逃げたいだけ。

―――本当かしら、それを逃げない口実にしているだけじゃない?

違うわ!失敗は許されないもの、安易に逃げて更に警戒されたらどうするの、確実なチャンスを狙っているのよ。

―――どうかしら。

―――『いつでも逃げられる』、それを口実に、わざと留まっているように見えるわ。

「違うっ!!」

たった一人、声に出して叫んだ。