いつでも逃げられる

私が返事したのが嬉しかったのだろうか。

男がフッと微笑む気配。

「そりゃあ…僕は加奈子ちゃんの事ずっと見てるから。加奈子ちゃんの事好きだもの」

「……」

監禁初日なら、この台詞をどう思っただろう。

身の毛もよだつ告白。

ずっと見てるなんて、覗きか変質者のどっちかだとしか思わなかったかもしれない。

だけど…。

この男は、数日間における私との生活の間、まだ一度も邪な感情を見せない。

それどころか公言通り私を愛で、献身的に甲斐甲斐しく私を世話する。

勇作なんてすぐに体を求める、そのくせ釣った魚には餌をやらないタイプだったのに。