いつでも逃げられる

結局、全身隅々まで私は触れられた。

けど、決して邪な理由ではなく、あくまで『汗を拭う』という理由で。

男はそれ以上の事はせず、私の体を綺麗にした後は、すぐに距離を置いた。

「…つ~…っ」

小さく呟く男の声。

私が暴力を振るったのが、相当痛かったらしい。

…こいつ、本気で私の体を綺麗にするだけの理由で触れたのかしら…。

だけど謝る義理なんてこれっぽっちもない。

私はこの男に拉致され、監禁されている。

それを、いやらしい事されずに体を綺麗にしてもらったからって、『有り難う』とも『ごめんなさい』とも言う必要はない。

ただ体を隠すように縮こまらせて、男に背中を向けていた。