いつでも逃げられる

組み敷かれ、鋏を向けられ。

私は抵抗できなかった。

「そうだ。じっとしてるんだ加奈子ちゃん…いい子だね…」

荒い息、汗臭い体臭。

男の興奮した熱が、肌を通じて私にも伝わってくる。

「動いたら駄目だよ?鋏持ってるからね…加奈子ちゃんの綺麗な肌を傷つけたくない…」

「…っっ…っ……!」

まともに呼吸すら出来ないほどの恐怖に、私はただ小刻みに震えた。

犯される…いや、このまま殺されるかもしれない…。

お母さん…お父さん…!

恐ろしさに、心の中で助けを求める。

その助けを求める相手の中に、何故か…冷え切って、軽蔑の感情しか持っていない筈の勇作の名もあった…。