静の叫び声が聞こえて、視線を静に戻すと同時に、手に痛みが走る。
静はラケットを放りだして、こちらに駆けてきた。
「大丈夫!?」
何が起こったのかよくわからないまま、自分の手を見ると、
いつの間に落としたのか、ラケットを握っていない右手の親指の付け根あたりが赤くなっていた。
「ごめんね、ヒナ」
静はあたしの肩に手をおいて、覗きこみながら謝る。
ケガをしたと気づいた途端にズキズキ痛みだす右手を左手で押さえて、笑った。
「ううん。よそ見してたあたしが悪いから」
「雛野さん、冷やしたほうがいいわ。保健室に行ってきなさい」
騒ぎに気づいて駆け寄ってきた体育教師が声を張り上げた。
「はい」
頷くと、打ち合いをやめたクラスメートに「行ってくる」と笑いかけて、グラウンドを離れた。
後ろからは、先生の号令の後に、いつも通り授業が再開される音が聞こえていた。
ゆっくり歩きながら、自分が血の香りの源に近づいてることは肌で感じていた。