家の前には車が停められていた。

ママは心配性で引っ越してからはずっと私に運転手を付けるようになった。

その人はもう60歳になろうかというおじいさんであるが、運転士としてはかなりのベテランらしい。


「おはようございます。」

挨拶してドアを開けるタイミングは、いつも私がスピードを落とさなくてもいいように気配りがされていた。


車へと乗り込み、これから通うことになる大学への道のりを窓を眺めながらぼんやりと見ていた。

私はこの大学生活を高校と同じものなのかなと思っていた。
好きな本を読んで、勉強して、その日々の繰り返しのうちに卒業して社会へと出るのだろうと。


「ここで宜しいですか?」

私はその声で窓から目を離し、ミラー越しに運転手を見た。

それからもう一度窓の外を見て、車が校門近くに停められているのに気が付いた。


「ありがとう、渡さん。」

と言って私はドアを開けて外に出た。

「ドアを開けられず、申し訳ありません。お気をつけて。」

と笑顔であいさつをして渡さんは車を発進させて行った。



私は下を向き、校門をくぐって教室に向かって歩きだした。