なのに…、肝心なウソ吐きの理由が出てこないなんてね…。
“別れよう”の一言を発するだけで、1ヶ月も必要だったくらい。
それくらい、この言葉を告げたくなかったから・・・
「は…?何なんだよ、潮時って!」
「っ・・・」
甲高い声が心地良い店内で、怒気を含んだ異質な声色が響き渡って。
そんな英大の荒げた声が、お店の空気をシンと一変させてしまう。
一旦静まり返ったあと、今度はヒソヒソと話している他のお客さん。
向けられた視線が、ますます私の気分を落ち込ませていく…。
「…場所変えるぞ、美波」
「…うん」
テーブル上に残った、絶品らしいシブーストが無残な残骸となっていた。
これから先、このケーキを嫌いにさせてしまいそうな気がする中で。
ガタッと音を立てて、椅子から立ち上がった英大のあとを追って。
私もカバンを手にすると、不快な視線を避けるように通り抜けて行った。

