「恵ちゃんが歌えてなかっただろ」

「え?」

「それは俺だけのせいじゃないだろ!?お前だってすっげー入れてたじゃんか!」


 ヤスがニッと笑ってきた。

 心が高らかにジャンプ。


「わ、私、歌うより聞くほうが好きだから」

「ほらな。恵がそう言ってるんだからいいんだよ」

「えー?俺、恵ちゃんの声好きなんだけどな」


 “好き”という言葉に心がずっこけた。

 思わず胸に手をやりそうになるのを止めた。

 大輔もヤスも気付いた様子はない。


「音痴だよ?」

「音痴じゃないでしょ。謙遜しすぎだって」


 本当に優しい。

 照れくさくて、下唇をかんで笑った。

 大輔はそんなこと言わない。

 褒めてくれないし、好きだとか言わないし。

 その分、ヤスが言ってくれてる気がする。

 ヤスはそんなこと意識せずに言ってるんだろうけど、私の心はその一言一言に小躍りするんだ。