「お前、歌いすぎ」

「うるせー」


 ヤスの言葉に、大輔は不服そうながらも笑っていた。

 カラオケを終えて、いつものファミレス。

 ドリンクバーをひとまず頼んでのんびり。

 私の斜め前に座ったヤスをじっと見る。

 今日も相変わらずたれ目で、人懐っこそうな笑顔を浮かべている。

 ちょっと小柄な身長、少し高めの声、寝ぐせみたいなくせ毛。

 周りのみんなは「かわいい」と言うけれど、私には「かっこいい」にしか見えない。

 軽くなった心は、いつもより早くジャンプする。


「低い声いいよなぁー…俺、でねぇもん」

「最近の男の歌は高いだろ。ほとんど歌えねぇよ。お前のほうが出るだろ」

「渋い曲が好きだ」

「…渋い軍団の曲が好きだもんな、お前」


 そんなやり取りをする2人を静観。

 滴の垂れたグラス。

 その周りに水たまり。

 指をつけたら、意外と冷たかった。