「私、はちまき渡してないんだ」

「え?」

「ほら、あったじゃん。“思いの通じ合ってる男女ははちまきを交換する”っていう、ジンクスなんだかよくわからない話」

「あったな」

「大輔が告白してきたとき、はちまき渡してきたんだ。私、その時持ってなかったから、後で渡すって言って…それっきり」

「へーそれは知らなかったな。たぶん、大輔も忘れてるんじゃないか?」


 ヤスが面白そうに笑った。

 さりげなくついた嘘は気付かれることはない。

 だってそれを知っているのは私だけだ。

 ポケット越しに握りしめたはちまきは、違う人に渡したかったから。

 大輔には渡せなかった。


「ってかさ、また体育祭してぇなー。大学のはクラスマッチみたいだしなぁ」

「そうなんだ?私サークル入ってないから、どんなのか知らないんだよね」


 だったら話してやろうと偉そうに言ったヤスに笑った。


 ポケットの中の桃色のはちまき。

 それは、ヤスに渡したかった。

 もらいたかったのは赤いはちまき。

 それは、ヤスにもらいたかった。