差し出された白色のはちまきが揺れていた。


 風で?


 違った。


 その差し出された手が震えていたからだ。

 精悍なまなざしが、少し不安げに揺れていた。


 そのとき私は、何を選択すればよかったんだろう。

 “彼”はもうここにいないじゃない。

 私をここに連れてきたのは“彼”だ。


 差し出されても、私は差し出すことすらできずに終わってしまった。

 ここで受け取らずにいたら、“彼”との接点は終わってしまうんじゃないかって。

 よぎった思いは私を動かした。


 最悪な選択をしたんだ。

 わかってる。

 嬉しそうに笑う彼に私は笑えなかった。


 ごめんなさい。


 謝った。


 聞き取れなかったみたいで聞き返してきた彼に、私は首を振った。


 胸が苦しいくらいに締め付けられたのは、せつないからじゃない。

 罪悪感が私の心を止めようとしたからだ。


 これから先ずっと、心に罪悪感が巣食ってしまうんだ。


 ここにいない“彼”の名前を出した彼は笑顔で。


 ポケットに入れたままの桃色のはちまきを、ズボン越しにつかんだ。