翌日、俺は彼女に仕事を休ませ病院に向かったんだ。


「どうしたのよもう!あたしやだよ病院なんて!どこも悪くないんだからぁ〜」

俺は嫌がる彼女の手を無意識の内に強く引いていた。



病院で事情を話しいくつかの検査をした。



健太郎の悲鳴にも似た声が診察室に響く



「それで…どうなんだ先生っ!」



医者は少しの静寂の後ゆっくりと口を開いた。




「はい。検査の結果と彼女の症状を鑑みて、かなり高い確率でこれは若年性認知症と言えるでしょう。」


「…ッ!」


ガックリとその大きな肩を落とし、健太郎の目から大粒の涙が溢れ出た。



目の前が真っ暗になった。



医者がなにか言っていたが耳に入らなかった



俺はこの時初めて目の前が真っ暗になるという感覚を知った。



これがどんなに悲しい病気なのかを俺は知っていた。







健太郎は幼い頃、大のおばあちゃん子だったが、

おばあちゃんは晩年この認知症だったのだ。



この頃の健太郎の日課になっていたのは朝1番におばあちゃんにおはようを言う事だった。



「おはよう!おばあちゃん!」



と、朝1番満面の笑みでおばあちゃんに駆け寄ると、

「あら、どこの子だい!」

「おばあちゃん僕だよっ健ちゃんだよぉ!」

「おまえなんか知らないよ!勝手に人様の家に入ってくるもんじゃないよ!出ておゆき!」





本当にショックだった。

幼い健太郎の目にはみるみる涙が溢れ、分けが解らないままぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
ショックのあまりその場に立ちすくみ、ただ泣きじゃくるしかなかった。





大好きなおばあちゃん。

そのおばあちゃんが自分に怒鳴っている。

自分を知らない子供と言う。

本当に悲しかった。

子供ながらに心が張り裂ける思いだった。





そう。健太郎は認知症がどんなに悲しい病気なのかを経験していたのだ。そしてその末路も。



若年性認知症。

それがさとみの病名だった。