「くっそー…喉渇いた」

真夏の銀座オフィス街、建ち並ぶビルの一角にあるその現場は粉塵などが飛散しないよう緑色のシートで囲われていた。

この現場から数分歩くと、このオフィス街唯一のコンビニがある。

健太郎はそこに向かって歩き出していた。






遡る事その数分前。

買い物を終えコンビニから出てくる華奢な女性。

キャリアウーマン風の彼女の手にはコンビニのビニール袋と愛用のお気に入りの鞄。それとコンビニでコピーしたのだろう書類を抱えている。

「ピリリリリ!」

若い女性にしては珍しい携帯を買った状態と変わらぬそのままの着信音が鳴る。

「はい、もしもし。石原の携帯です」

「あ、はい。今出先なものでして…あ、はい。それなら今私が持っています。」

電話の相手は彼女の上司。
午後の会議の為に必要な書類。そのコピーを頼まれたのだが生憎会社のコピー機が壊れていた為、昼食の買い出しついでにコンビニでコピーしたのだった。

どうやら書類の一部に誤りがあるようで、その確認の為に電話をかけてきたようだった。

コンビニ前に設置された花壇。
そのすぐ横には少し長めのベンチ。

そのベンチにコンビニ袋を置き、目当ての書類を探す。




鳶職用の寅一超超ロング。
健太郎が好んで着用している見た目ダブダブの作業ズボンだ。
高所から転落した際に、そのダブダブが足場や鉄筋にひっかかり落下を食い止めるように作られている。

そのダブダブのズボンを地面に引きずりながらだるそうにコンビニに入る健太郎。

迷わずポカリスエット1.5㍑のペットボトルを手に取りやや早足でレジへ向かう。

「ここ金置くよ。釣りは募金しといて。」

見た目によらず良いヤツである。