その夜

ふと目覚めるとさとみの姿はなかった。


「さとみ…さとみ?!」

家の中をくまなく探したがさとみの姿はない。

キッチンのテーブルの上にはあんパンがひとつ置かれていた。

まだかすかに温かい。

あんパンの下にはメモが置かれていた。







家を飛び出し夢中で走った



「さとみっ!さとみ!!」





健くん、ごめんね。

健くんに辛い思いをさせるのは、健くんの泣く姿を見るのはもうやだよ…。

せめてこの記憶があるうちに行きたいの。

あたしを愛してくれてありがとう。

さようなら健くん





そう書かれていた。




「さとみ…うっ…ぐっ…こんなのある…かよ…!さとみ!!」


俺を、俺を置いていかないでくれ…さとみ!


ただ夢中で暗闇の中を走った


不意に携帯が鳴る。


「さとみ!さとみか?!」


その電話は銀座にある救急病院からだった



「………」



携帯が手からこぼれ落ちた

それとほぼ同時に健太郎はその場に崩れた。







事故だった。




深夜居眠り運転のダンプに路上で撥ねられたとの事だった。




その事故現場から数メートル先にはコンビニがあった。


ふたりが出逢ったあのコンビニだった…。







認知症。

それは誰もが発症し得る最も悲しい病気だ。

それが今日か、明日か。

一年後か十年後かは分からない。

その時は唐突に訪れる。







終わり。