もう一度だけ寂しいと漏らした彼に挨拶し、バックヤードから足早に観音開きの扉を開けた。


自分で思っていたより重症……。

なんだか胸の奥がキュッと痛くて、寂しくなって泣きたくなる。


「あれ? 珍しいね」


わたしと交代で入ったバイトの先輩が、レジの前で会釈したわたしに声をかけた。



彼女のマスカラ一杯の瞳が、手元のカバンを見つめてからわたしに視線が移った。


「今日、泊まりなんです」


ずっとバイト用に使っていた小さな手提げに加えて、旅行用に使う大きめのバッグを軽く掲げて笑い返す。


「へぇ……楽しんで来てね」


意味深な視線とグロスが光る口元の笑み。


「お先に失礼します」


肯定するように澄ました顔で改めて会釈し、コンビニの自動ドアをくぐった。



先輩の意味深な笑顔が物語ってるような色気のある話じゃない。



両親が親戚の結婚式で家を空けてるから、近所で一人暮らししてるお兄ちゃんのマンションに転がり込むだけ。