朝いつものように侍女に起こされる前に、不思議と自然に目が覚めた。もしかしたらいつもより大分冷え込んでいたせいかもしれない。
 世継ぎの王子に与えられるに相応しい広さの自室に据えられた寝台は、屋根から天蓋が下げられ、やはり無駄に広い。
 幾ら広いその中に居たところで寒さまでもが変わる訳ではなく、この部屋の主であるアルヴヘイムの第一王子カリムは小さく身震いをした。
 夜着の衣擦れの音を伴いながら寝台を降り、寒さの原因を探るように何気なく窓に歩み寄る。
 床から天井までを埋める重たいカーテンをそっと手で避けて、カリムは思わず息を呑んだ。

「これは……雪…?」

 初めてだった。18年生きてきて。
 空から舞う雪を見たのも、世界を純白に染め替えるように積もった雪を見たのも。
 不思議な胸の高鳴りは堪らない高揚感へと姿を変え、カリムは慌ただしく室内を歩くと夜着を脱ぎ捨てて寝台に投げ、自分の手でクローゼットを開き一張羅の普段着を取り出した。
 飾り気のない襟広の白いシャツには桃の色をしたリボンを片蝶で飾り、スリムな黒のパンツを履いたのにその上から裂いた赤い女性物のドレススカートを巻き、黒のベストを羽織れば「変人」カリム王子の完成だ。
 周りがどんな評価を下しても、彼の好みが曲がる気配はなくいつしか家臣は異を唱えるのをやめてしまった。