アンチバリアフリー

「う−ん、、あっ、えっと、あの」

女はおれに気付き慌てて立ち上がろうとしたが、アパートの通路が雨で滑りやすくなっていたせいでバランスを崩した。
おれはとっさにその女の腕をつかんで支えてやった。

「、、、どうも」

女はさっきの慌てぶりとこけそうになった自分を見ておれが笑っていると思ったのか、恥ずかしさと怒りを7:3で混ぜたような複雑そうな表情でおれの様子を伺っていた。
そして女は、まるで幼い弟のいたずらにあきれた後それを許すことが年上の自分の役割であると確信している姉のように、軽く溜息をついて安心したような表情になった。

「久しぶりね、心配してたのよ。あんなに報道されちゃってたから、今までこれなかったんだけど、大丈夫だった?マスコミとか大変だったでしょ」

最初の慌てぶりやこけそうになって助けた時の反応、やけにお姉さんぶる性格、ほかの誰にもわからないような小さな癖、その全てが頭の中でただ一人の人物に結びついていく。
女が立ち上がる前からその名前は頭の中にはっきりと浮かんでいた。

「どーした?あれ、もしかしてわかんないかなぁ、そんなに変わってないと思うんだけどなぁ、、」

「わかるよ、早紀だろ」