どのくらいの沈黙だっただろう



英雄さんが口を開いた



「………ショックだなぁ…」


いつもの威圧感はなく
間の抜けた声だった


「なにが嫌なんだよ、市花
…そうだ、欲しい物ない?
買ってあげるよ」



的外れだし、
いつもの英雄さんらしくない



「そういうんじゃなくて
もう普通の家族でいよう
別れたいの」



「………ハッ」
英雄さんは短く笑って



「別れたいの………ね。
そんなこと
そんなこと市花が言うなよ」



…………おかしい


気がついた時は
もう遅いんだ



……グイッ

無理やり肩を抱き寄せられて



「………いやっ!」


「なんだよ市花
なにが気にいらないって?
なあ、なんだよっ!」



「もう嫌なの!やめてっ!」


暴れれば暴れるほど
肩に回された腕が
きつくなっていく



「お前から言ってきたよなっ
オレが好きだって
お前からだったよなっ」



怒鳴りながら


助手席のシートを倒して
私に覆い被さり
腕をすごい力で押さえつけた



「勝手なこと
言ってんじゃねぇぞ
別れたいなんて
許さないからな」



嫌だ、もう嫌だ


こんなの絶対にもう嫌だ