先生の青





少し早く家を出ると言った私を
英雄さんは不機嫌な顔で見た



だけど お父さんの手前
ムスッとしながらも
学校へ送って行った



相変わらず
私がちゃんと
生徒玄関に入るまで
監視してる




教室には向かわず
まっすぐ美術室へ向かう




ドアを開けると
窓から差し込む光に
目を細める




美術室の片隅
イーゼルをたて
青い絵を描いてた




      木下





最初なかなか
新しい名字を覚えなかった



 木下を嫁にもらう男がいない



なんて失礼なことも言った



……………結局、
自分がもらうんじゃん、先生




ふっ て笑いがもれると
泣きそうになって
隣の美術準備室へ移動した




雑然と物が置かれた
準備室の床に
油絵の具のチューブが落ちてる




そっと拾うと



先生の青い絵の具
コバルトブルー



油絵の具のチューブは
先生の親指の形に
真ん中がくぼんでた



その くぼみに
自分の親指を重ねる




「…………先生……」





遠くで廊下を走る
足音が聞こえる



窓の外
登校する生徒の
にぎやかな声が聞こえた




…………お守りにしよう



先生の青を
制服の胸ポケットに
そっと忍ばせた