………医師に嫁に出すため



「そんなバカな話……」

「バカな話?
ふざけるなよ、市花。


一ノ瀬の長男に
生まれたからには
自分の意志に関わらず
将来が決まってる


レールの上、脱線しないように
必死になって医大に入った
オレをバカにする気か?」



「だって、私は……」



「大切な商品に
傷がついたら困るんだよ


だから父さんは今朝
あんなに剣幕だったんだ


お前の母親が出て行ったって
ケロッとしてたのは
市花さえいたら
それで良かったからだ」




   娘が欲しかった




確かにお父さんは
いつも そう言ってた


お母さんのことも
少し疲れた表情を
見せただけで
全然 怒ったり
悲しんだりしなかった




呆然とする私を
英雄さんはじっと見て



「市花もオレと同じく
一ノ瀬家の安泰のために
自由なんて
何一つ許されねぇんだよ


父さんの決めた大学で
お嬢としての教養を
身に付けるんだ


そして
決められた相手の元に嫁いで


父さんがあの大学病院を
去ったあとも
太いパイプで
繋がなきゃならない」



「――――――――………」



穏やかな表情で
家族のことには
無関心な人だと思ってた


そんなお父さんが
K大かF女子大って
私の進路に口を出したのも
そういう理由で…………?



お母さんも言ってた


一ノ瀬である以上
高卒で就職は許されない