「はぁ………」


英雄さんの
荒い呼吸が聞こえて


髪を掴んだ手が
ゆっくり離れた



それでも怖くて
ベッドの上、身を丸くして
目を固く閉じてた




ギシッ……


英雄さんがベッドから離れ
私の机の椅子に座った




「今までは………」


呟くような英雄さんの声に
おそるおそる目を開く



虚ろな英雄さんの目は
焦点が定まってない
ように見えた




「今までは……父さんが
市花のことを何で
手元に呼んだのかが、
わからなかったんだよ、オレ」



すっかり
英雄さんの身体からは
力が抜けてて
やっと私も起き上がった



「父さん、自分で言ったように
ただ娘が欲しかっただけかって


ただ女の子を
可愛がりたいだけで
母さんを追い出して
お前ら親子を呼んだのかって


そう思ってた、今日までは」



今日までは?



「だけど、今朝の父さん見て
やっと わかったよ


市花。お前は父さんとオレの
いや、一ノ瀬の保険だ」



「…………保険?」



「ただ娘を可愛がりたい。
父さんがそんな無意味なこと
思うわけないんだよ


大学病院で
確かな地位を守るために


娘を自分の目をかけた
もしくは将来、オレにとって
有意になる医師に
嫁に出すため使えると
思ったんだろ」