夢を見た



私は4才か5才の子供だった



狭くてボロい市営住宅の
畳の上に布団を敷いて
熱を出して寝てた




だんだん熱が上がって苦しくて
だけどお母さんは仕事でいない



「……はぁ、はぁ」


乱れた自分の呼吸だけが
誰もいない部屋に響いてた




あんまり苦しいから
そのうち
私は死んじゃうんじゃないか
そんな不安に襲われて



熱で朦朧とする身体で
ずりずり畳の上を這い
居間の電話のところまで来た




壁に掴まりながら
なんとか立ち上がり
受話器を取る



だけど電話のかけ方が
わからなくて



人差し指を
電話にかざしたまま
困ってしまう



仕方なく受話器を戻して


どうしよう
どうしよう
お母さん
私、死んじゃうよ



不安で不安で
ドクドク
心臓の音が耳にうるさい



その時


プルル、プルルと
電話が鳴り



―――――――お母さんだ!



良かった
お母さんが電話くれた



受話器を耳に当てると
「もしもし?市花?」
やっぱりお母さんだ



お母さん
市花、熱が高いんだ
苦しいよ、助けてよ


口を開いて
伝えようとしたのに


「…………」



あれ?なんで?
声が出ない



「市花?市花?」


「………!………!」


何度 口を動かしても
声は出ない



「市花?」



どうして?
苦しいの
早く助けてほしい


「もう切るよ」


やだやだやだやだやだやだ
切っちゃやだ
帰ってきて、お母さん
苦しいよ
市花、死んじゃうよ



「じゃあね、市花」


ダメ、やだよ
お母さんやだ
助けて助けて
苦しいのに





 プツッ


「ツー、ツー、ツー」


耳に響く寂しい機械の音



お母さん、お母さん
お母さん どうして?