戸口から見てたお父さんが
少しこちらに近づき



「これでわかってくれたかな?
僕も仕事が忙しくて
お母さんに何があったか
全く見当がつかないんだ


市花ちゃん
君はお母さんから何か
何か聞いているんじゃないか?」




「………何も」


胸がヒリヒリする


「……何も聞いてないです」




声がうまく出なくて
かすれた



後ろでお父さんの
ため息が聞こえた



「……娘にも何もなしか」




その言葉を聞いた時
足元からゾクッと
何とも言えない哀しみが
込み上げてきた




ここにいても仕方ない
リビングへ戻ろうと
お父さんに促され
寝室を出た




廊下を進みながら



「捜索願いとか……」


私の問いに
お父さんは首を横に振った




「自分から出て行ったのは
明らかだし
しばらく様子を見よう


戻らなかったら
捜索願いじゃなく
家出人として出すしかない」





………戻らなかったら



戻らなかったら
私どうなるんだろう



リビングに入ると
おばあさんが
まるで仇を見るように
私をにらんだ。




「本当に恥をかかせる事をして」



唇噛みしめて
堪えるしかなかった



「だから再婚なんて
反対だったんですよ」


おばあさんは
その後も
私をお母さんに見立てるように
罵り続けた



最後の方は
おばあさんの声が
耳に聞こえてても
言葉の意味を理解する事を
頭が拒否した




「子供を捨てていくなんて
とんだ母親だよ」




なんでだろう
「子供を捨てていく」
って言葉だけ
妙に頭に残って離れなかった