空が陰ってきたせいか
道行く人の足並みが
早い気がする
見失わないように
見つめたお母さんの背中は
いつもと違う。
何が?と訊かれて
説明のできる物ではないけど
私の知らない目的地へと向かう
お母さんは
私の知らないお母さんだ
駅から10分ほど歩き
お母さんは
小さな喫茶店に入った
少し離れたところで
『ジュリエット』と書かれた
喫茶店の看板をながめ
……こんな小さな古い喫茶店
中に入ったら
お母さんに気付かれる
フツーに
お茶でもするのか
ありきたりな事に
ホッとしたような
ガッカリしたような
そもそも私は
何のために
お母さんを尾行したんだろ
「………帰ろ」
ため息まじりに呟いた時
喫茶店から人が出てきて
思わず建物の陰に身を隠した
さっき店に入ったばかりの
お母さんが出てきて
その後ろには
見た事のないオジサンがいた
あのオジサンって
茶飲み友達だろうか?
だけど
二人が向かう
道の先を思ったとたん
ドクドクドクドク………
心臓が嫌な音をたて始める
行かない方がいい
見ない方がいい
だけど何かの間違い
かも知れない
胸を締め付ける
息苦しさを感じながら
また背中を追いかけた
寄り添うわけでもなく
適度な距離を保ちながら
ためらう事なく足を進める
私の母親と見知らぬオジサンが
裏通りのラブホ街へ
吸い込まれていった。



