「はい。コーヒー」
なるべくフツーに
だけど普段より
よそよそしい口調で……
なんて考えてたら
危うく舌を噛みそうになった
差し出した缶コーヒーを
先生は受け取り
「あれ?イチ今日バイトは?」
「………うん」
先生のキャンバスを見つめて
曖昧に返事をする
バイトを辞めた事
家教が付いた事
先生には言えなかった
先生は相変わらず
青い海を描く
戒めのつもりなんだろうか?
以前はただ綺麗だった青に
今はチクリと胸が痛む。
ぼんやりキャンバスを
見つめてたら
なんだか吸い込まれそうだ。
深い深い海の底に
沈んでしまいたいような……
「イチ?」
―――――――――ハッ
気が付くと
先生が心配そうに
私の顔をのぞき込んでた
「どうした?大丈夫か?」
「………うん。
なんか少し見とれてた……」
へへ……と 力なく笑った私に
先生は申し訳なさそうな
表情をした
…そんな表情させたくないのに
微妙な空気を打ち破ったのは
森さんの舌足らずな言葉
「愛夏もぉ、
絵、描いてみよーかなぁ」
………え?
まだアナタ美術部来てから
何も作ってないの?
先生は無理やり
明るい声を出して
「おう。やる気があるなら
デッサンから教えてやるよ」
毎日、毎日、先生のそば
うろちょろして
飽きないのかね
私だったら飽きるね
(彼女にあるまじき発言?)
呆れてる私の視線を
何か勘違いした森さんは
「ふふん」と
少し得意気な顔をした
バッカみたい
………先生も
森さんのお守り大変だな
デッサンに使う石膏像を選ぶ
先生の背中に少々同情したけど
やっぱり誰にでも
いい顔しいだからだよ。
自業自得だね……と思い直した



