先生はボストンバッグを
玄関に置いて
居間に進み暖房を入れた
部屋を包む冷気は
数日の留守を物語ってるようだ
先生の部屋だけど
ここからは すっかり
先生の匂いが消えてた
私は玄関から
一歩も動けなかった
先生の青ざめた横顔を見たら
身体が固まって動かない
あんなに先生を抱きしめたいと思ってたのに………
先生は玄関の私を振り返り
「おいで、イチ。
身体が冷えてる……
部屋ももうじき暖まるよ」
「うん」
うなずいて靴を脱ぐと
先生はベッドに座った
ガックリ肩を落として
伏せた目は
どこを見つめてるのか
わからなかった
居間の隅にバッグを置いて
先生の足元に座った
「………先生」
「ん?」
「…ちゃんと……食べてる?」
私の言葉に先生は首を傾げた
「私、買い物行って来ようかな
何か作るよ………」
立ち上がろうとした私の肩を
先生は片手で押さえ
「………いい。何もしないで」
「………………」
どうしたらいいんだろう
何をしたらいいんだろう
何が出来るんだろう
答えはどこにも見つからない
哀しみと絶望の中にいる先生の足元に座ることしか私には出来ない
無力だった



