久しぶりに見た先生は
美術室の片隅にイーゼルを置き
周りが目に入っていないくらい
集中して筆を動かしてた




  ああ、やっぱり綺麗だ


陽を浴びた茶色い髪も


その横顔のあごのラインも


筆を持つ華奢な指先


キャンバスに広がる
一面の青



しばらく立ち尽くして
先生を見つめてた


それは長い時間にも思えたけど
ほんの数秒だったかも知れない




「市花」


部員の女子に声をかけられ
ハッとする


「夏休みにさ、
貸してって言った本
いつ持ってきてくれる?」



「……あ、ああ。あるよ。
あ、でも教室の机の中だ。
今、取ってくるね」


今 来たばかりの美術室を出ようとした時、何気なく視線が先生の方を向いた。




     ドクン……



心臓が一度大きな音をたてる



先生は優しい柔らかい表情をして私を見てた。



私が目を逸らすより先に
穏やかな表情のまま
先生はまた
キャンバスに向き合った