必要ないと言う
先生を押しきって
お花屋さんに寄り
ブーケを買った
休日の大学病院に入る
行き交う人は見舞い客か
入院患者くらい
何度も通ってる先生の
迷いのない足取りの後ろを歩く
たどり着いた病室の前
安田 史絵と書かれた
ネームプレートを見て
今さら緊張で足が震えた
このドアの向こうに
フミさんが眠ってる
ドアに手をかけた先生が
「やっぱり帰るか?」
低い声で私に訊いた
緊張して怖いのは
きっと先生も一緒だ
一度きつく目を閉じて
臆病な自分を
胸の奥に押し込める
痛みの先が
このドアの向こうにある
戻れない道なら進むしかない
自分で自分を騙す恋心は
私にいらない
「大丈夫だよ、先生」
にっこり笑って
不安げな先生を見上げた
先生は真っ直ぐ
私の目を見てから
ゆっくり病室のドアを開いた



