病院に向かう前に
先生は少し寄り道をした
着いた場所は岬
駐車場に車を止め
降りると潮の香りがする
少し強い風の中
すたすた歩いて行く
先生の背中を
駆け足で追いかける
先生は岬の柵を乗り越え
ぼうぼうに生えた草の先
崖ギリギリに立った
「ちょっと!先生!危ないよ」
柵を握りしめ
身を乗り出して叫ぶと
先生は両腕広げて
「スゲー高い
飛んでるみたい」
その背中は本当に
向こうに広がる海へ
飛んで行ってしまいそうで
私も柵を越えて
先生の背中に抱きついた
「落ちたら どーすんのさっ!」
クククと先生は笑い
「イチ。
もしも今オレが
『一緒に落ちてくれ』って
言ったらどーする?」
笑いを含んだ声
だけど
抱きしめた先生の身体は
強ばってる気がする
ギュッと
抱きしめる腕に力を込め
先生の背中に顔を埋めて言った
「いいよ。一緒に落ちよう」
私がキッパリ答えると
先生はスッと短く息を吸って
腰に回された私の手に
自分の手を重ね
「イチはバカだな、本当に」
深く響く先生の声に
泣きたくなったのは
どうしてだろう



