持っていれば
宝物にしてしまうだろう
この部屋の合鍵を
一度だけ強く握りしめ
口元にあてた
これを私の物にしてはいけない
合鍵を持てば
私は私を見失う
早く身支度を整え
部屋を出た
ドアの鍵を閉める時
合鍵を使うのは
これが最初で最後だと
妙な感傷に浸る自分に
苦笑いしてしまう
マンションの1階に降りて
郵便受けに
鍵が付いてるのを確認して
部屋の合鍵を入れた
カタンッ……って
冷たい音が響いた時
なんとも言えない切なさが残る
先生の彼女だったら
私が本当に先生の彼女だったら
泣けるほど嬉しい
プレゼントだっただろうな
マンションの
エントランスを抜け
真夏の日差しが照りつける
外の景色が揺れるのは
蜃気楼のせいだ
私は泣いてなんかいない
早足で歩道を進みながら
先生にメールした
>鍵、郵便受けに返しました



