先生の青




絵の中で微笑む
彼女を見てたら
だんだんと
目の焦点が
合わなくなっていく


スケッチブックの表紙が
手のひらに
張り付いていくみたいで


怖くなってパタンと閉じ
元通り床に置いた



壁に立て掛けてある
深い青い海


先生は
子供の頃の海って言ったけど


本当は


本当は
フミさんの自殺未遂のあと
入った海なんじゃないの?



いつだって先生は
自ら囚われた過去から
逃げ出したいんでしょう



静か過ぎる
アトリエの中


深い眠りから急に
揺り起こされた気分になった



私を救った先生の優しさは
私のためのモノではなかった



叶わないカナさんへの恋心


傷つけてしまった
フミさんへの罪悪



私の存在は
自分の寂しさを慰めるため




私の弱さを
彼は利用してたんだ



「はぁ―――――」


足元に視線を落とし
深いため息をついて
顔を上げた



やめよう


そう思った


その時、確かに 私は
もう先生に関わるのは やめよう


はっきり そう思った



弱い者同士が依存しあっても
何もいいことなんてない



心を決めて
ドアノブを握り
アトリエを出た