「どうして……
先生は恋ができないの?」
幼い子供が物を尋ねるように
私の声は暗闇に響いた。
先生は ゆっくり寝返りをうち
仰向けになって
天井を見つめた
額に片手をのせ
「それは……」
言いかけて やめた
彼の横顔には まだ
迷いが残ってる
「……先生?」
「大切な女の子を
ひどく傷つけたんだ」
先生の言葉を聞いた時
一瞬、息が止まった
先生に そういう人がいる事に
ショックを受けた自分に
すごく動揺した
それでも話の続きを待つ私を
先生は見て
「今まで誰にも話した事ないし
これを聞いたら きっと
イチは嫌な思いをすると思う」
よく わからない場所に
足を踏み入れるような
気持ちだった
安全も何も確保されていない
もしかしたら地面すらなくて
一歩、踏み出したとたん
暗闇に堕ちるような
そんな場所に
足を踏み入れる気分
でも、そこに先生がいるなら
私が迷うはずもない
「……その女の子と先生に
何があったの?」
そっと、先生の手が伸びてきて
私の頬を丁寧に撫でた
気持ち良さに目を閉じて
2、3度 撫でられてから
目を開いた
目の前にある
先生の目には
もう迷いの欠片もなかった
「オレには幼なじみがいた」



