週末、土曜日
先生が車で連れて
来てくれた所は………
「なんでっっ?」
車が止まると思わず
叫んでしまった
先生が連れて来てくれた所は
N市でもなければ
海でもない
辺りを森林で囲まれた湖だった
先生は運転席で軽く伸びをして
「だってイチ、
水辺が描きたいんだろ?」
「違うよ、私は」
先生は私の言葉を
最後まで聞かず
車を降りた
私も慌てて車から降り
トランクから
イーゼルとか荷物を出す
先生の後ろで
「私は先生と同じ景色が
描きたいのに」
ガチャガチャ
荷物をおろしながら
「『同じ景色』は無理だよ」
「…………え?」
「確かに あれはN市の海だ
だけど『今の』じゃないから」
「どういう意味?」
荷物を全部おろした先生は
バンッとトランクを閉め
「あれはオレの記憶の中の海
子供の頃に遊んだ海だから
あの海はオレにしか描けない
例え、お前を海に連れて行っても無理なの」
……そんなに海って
様変わりするかな?
唇とがらせて
「それでも海が良かった……」
少しいじけたように言ったら
「…………オレは」
先生は目を伏せ
「オレはもう……
あの海には行けない」
その声が
あまりにも沈んでたから
それ以上、何も言えなかった



