一睡も出来ないまま
朝が来る
洗面所で顔を洗い
部屋に戻る途中
お義父さんの書斎の前を
通り掛かると声が聞こえた
立ち止まり
書斎のドアを見つめる
「英市。
英雄が家を出ること
どうして許すの?」
……おばあさんの声だ
「英雄が一人暮らししてみたいって言うんだ。
いい勉強にもなるだろう?」
「英雄は長男よ?
長男が家を出るなんて」
「だから、いい機会でしょう
どうせ家に戻らないと
いけないんだから
学生の今のうちに
一人暮らしを
経験させてあげましょう」
「英雄はあの子に
気を遣ってるんじゃ
ないのかい?」
…………ドクンッ
「あの子?
ああ、市花ちゃんか」
「あの娘がいるから
英雄、居心地悪いんじゃ
英雄は繊細だからね」
「あの娘って
市花だって
れっきとした
お母さんの孫なんだよ?」
…………やっぱり
英雄さんの話は
真実なんだ
また目の前が
すぅ…っと暗くなる
「ふん、どうだか
あの女がお前を
騙してるんじゃないのかい?」
「……お母さん
市花ちゃんは
僕にそっくりだよ
間違いないよ……」
「私はあの娘 好かないわ
人の腹を探るような
陰気なあの視線
いまさら急に出て来たって
孫だなんて思えない……」
「お母さん、
僕も もう仕事ですから……」



