「……………。」
廊下に出た私は、部屋への階段に足をかけるとき、何故かケータイが気になった。
背中のほうでは二人の声が聞こえる。
次の瞬間には、それすら気にならなくなっていく。
たった今お父さんに叩かれたばかりなのに、その時の怒りは自然と薄れていって、
「叔父さん…。」
足早に、私は階段を駆け上がった。
頭に浮かぶ叔父さんの笑顔。
頬の痛みも忘れてしまう、綺麗な叔父さんの笑顔。
叔父さんは最低なんかじゃないし、駄目な人間でもない。
有り得ない。
階段を上りきると、部屋のドアノブを掴んで力一杯引く。
真っ先に目を向けたのはベッドの上のケータイだ。
「…叔父さん…っ!」
奇跡が起きた。
私のケータイは、トモミくんの隣で大好きな着信音を響かせていたのだ。



