「く、くそ…」

プラチナの乙女スーツによって、貫通こそしなかったが…明らかに実力で負けていることを、理沙は悟っていた。

(真弓…)

片膝を地面につけながら、理沙は九鬼がふっ飛ばされた森を見た。

(間に合うか)

理沙は、真上にある月を見上げた。




「ううう…」

真由に投げられた衝撃により、九鬼の変身は解けていた。

それだけではない。最悪のことに、乙女ケースがなくなっていたのだ。

どうやら、投げられた衝撃で森の中に飛んでいったようだった。

探そうにも、月明かりだけでは無理そうだった。

「く、くそ」

真弓は立ち上がると、折れた木に手をかけて立ち上がった。

周りに魔物の気配はない。

どうやら…真由の怒りを感じて、どこかに身を潜めているようだ。

「ちょうどいい…」

魔物の心配はしなくていい。森の向こうにいる真由だけを相手にすれば…いいのだから…。

九鬼が歩き出そうとした瞬間、後ろから落ち葉を踏む音がした。

「な!」

前以外に気を抜いたばかりだった為、九鬼は慌てて振り返った。

そして、しばらく間を開けて、九鬼は目を丸くした。

「あ、あなた達は!?」




空気の槍で、穴だらけになったはずの輝だが…傷口は毛玉のようなものに塞がれていた。

(若よ)

草の上に倒れていた輝の頭の中で、声がした。

(誰だ?)

自分の頭の中から聞こえて来たが、輝にはその声が幻想でないことがわかっていた。

(我は…犬神。太古の昔、魔神でありながら…人間とともに戦うことを約束した一族の末裔)

(い、犬神!?)

輝ははっとした。

(今こそ、我の力を使うのです!あなたと…そして、お友達を守る為に…)

(だけど…僕は、戦いが苦手だ)

輝は、心の中で首を横に振った。

(ならば…致し方ない)

と、犬神が言った瞬間、倒れていた輝は立ち上がった。

そして、月に向かって遠吠えをすると、顔から血を流す真由に飛びかかった。

「この体!お借り申す!」

鋭い牙が生えると、素早い動きで、真由の死角から首筋に噛みついた。